『こちらは豆潜水艇「藻の花丸」の中であります。「海の銀座通り」といわれる相模湾伊豆伊東沖の底から、前半は岩礁の南側。即ち、表曽根から、後半は北側、裏曽根から、正午をはさんで前後一時間五分にわたり、日本で、いや、世界で初めての海底放送を行います。このラジオは1934年7月10日、(現NHK)静岡放送局から実況放送された。
陸上と違うのは滝がないだけと教えられましたが、潜航するにつれて広々とした海面では想像もできない情景が次々と現われてきます。密林のように繁茂しているホンダワラの林を通り抜けて、段々沈んでゆきます。
大鯛、小鯛が悠々と泳ぎ回っています。シマ模様の見えるかなり大きな魚もゆっくり泳いでおります。
突然、前の方が暗くなってきました。黒雲に覆われた感じです。魚の大群です。どうやらイワシの大群の移動する中に入った模様です。様子の違う裏曽根であります。
今、いわゆる「素もぐり」の潜水夫が一人上の万からスウーっと降りてきました。色とりどりの海草の生えた岩礁は実にきれいです。
潜水夫が手で何か指し示しております。近づいて見ましょう。岩の間から大きな伊勢エビが見えています。触角を少しあて動かしています。
その横の方ではタコとウツボがにらみ合った形でおります。アッ、! ウツボが突然タコに襲い掛かりました。どこかに噛み付いたらしい。体をくねらせ、砂煙をあげ文字通り食うか食われるかの死闘が始まりました。
西村式潜水艇第一号艇
一方では潜水夫のマスクの間から出る空気の白い泡が珍しいのか、アジのような小魚が恐れる様子もなく、顔の回りにまといつくので、うるさいのか盛んに手でこの小魚を払いのけている有様は、とても陸上では考えられないおだやかな光景です、、、』
『潜水艇「藻の花丸」より海の神秘を探る』と伝えている。
伊豆伊東町沖合、初島および平石島付近海底より中継、
担当アナウンサー 松隅敬三
中継アナウンサー 長笠原栄風
指導、静岡県水産試験場伊東分場長、三浦定之助
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